組のちから
第3回 新井組

アヌシー受賞作『Tissue Animals』受賞に至るまで

箱からティッシュが生き物にように出てきて、動物や植物の形になっていく──。
2013年の「Tissue Animals」は新井の代表作となった一作。本作で組んだ川崎プロデューサーとの最初の仕事が、まさに形を変えて代表作にも繋がっていっている。

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新井:川崎くんとは一番最初はL'OCCITANEでしたよね?

川崎:L'OCCITANEが青山のフラッグシップショップ(ロクシタン青山本店メゾン・ド・プロヴァンス)で流すプロジェクション映像の仕事でした。商品をコマ撮りして動かすっていう。風愉さんは社内からの紹介だったのかな。そのときはもう仕事ぶりは分かっていたので、これは風愉さんしかいないだろうとお願いしたんです。

新井:夜、商品たちが動き出して、みんなで話しているところをプロジェクションで映し出すということにして。

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川崎:その流れで『Tissue Animals』だったんです。代理店の方から、王子ネピアさんが行っている森林保護や植林活動をwebムービーで紹介したいという相談があって、ティッシュを使って何かやれないですかっていう話をいただいたんです。そのときはもうこれは風愉さんだろうと思っていたら、代理店の方も風愉さんのことは知っていて、是非にということだったので、最初から打ち合わせに参加してもらったんです。クライアントの方も理解があって、「いいですね」って言ったあとはすべてお任せしてくれて。

Webムービー『Tissue Animals』
王子ネピアが行う森林保全活動をメッセージングするブランドムービー。監督の新井風愉に依頼されたのは”CMっぽい語り口ではなく、面白くて話題になる映像”にすること。メッセージとして王子ネピアのサステナブルな森林保全活動を通した紙づくりを伝える意図があったため、ティッシュ1枚が変形し、それをコマ撮りしていくというアイデアにたどり着く。 2014年6月、本作で新井風愉は、アヌシー国際アニメーション映画祭 コマーシャル部門 最優秀賞を受賞。

新井:『Tissue Animals』はいろんな方に見ていただいて、自分にとってひとつのターニングポイントだった作品かなと思ってます。そういう意味では、松本さんと組んだ『PASMO』のCMもそうで、会社で初めてCMディレクターとして声を掛けてもらったということでも大きかった作品ですね。

『つながるのうた』は意識的なターニングポイント

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新井:あともう1つのターニングポイントと言えば、『Tissue Animals』より前ですけど、2011年に吉上さんと組んで自主製作で作らせてもらった『つながるのうた』ですね。自主製作みたいなことを会社に入ってからはずっとやっていなかったので、自分の中の動機みたいなものをもう一回掘り下げたい、掘り出したいみたいな気持ちもあって、意識的にターニングポイントにした作品でもあるんです。

オリジナル作品『つながるのうた』(2011)
特別バージョン"もっと つながるのうた"はこちら

新井:当時、ROBOTが25周年ということで、オリジナル作品を作る社内企画公募があったんです。やりたいものがいくつかもやもやあって、その中のひとつをこれは企画になりそうかなって思って出して。そういう機会があるって教えてくれたのが、吉上さんでした。

吉上:「こういう応募があるんだけれど、あと2日後に締めきりだからなんか出したら?」って。その時、ほんと気軽に言っただけだったんだけどね(笑)。

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新井:いや、でも言ってくれなかったら出してなかったですからね。普通はプロデューサーから仕事が来るわけですが、この場合は逆で僕のほうから吉上さんにプロデューサーをお願いしたんです。そもそもプロジェクトの話を教えてくれたのは吉上さんでしたし、当時『佐川急便』のTVCMも一緒にやっていて、割りとタッグ感もあったので、何かできるなら一緒にやりたいなと。

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新井:そしてその『つながるのうた』をつくった時に楽曲をお願いしたアーティストの永野亮さんから「今度は自分のミュージックビデオを作ってほしい」と声をかけていただき、一緒に作ったのが『はじめよう』ですね。

ミュージックビデオ『はじめよう』(2012)
タイトル通り、自分たちの力でできることから「はじめよう」をコンセプトに、ワイヤーもグリーンバック合成も一切使わずに、DIYな手法で「空中浮遊」を実現した映像作品。舞台裏と見比べられる「裏ヴァージョン」も同時公開し、裏表両面でひとつの作品として楽しむことが出来る。 2012年12月、本作で新井風愉は、第16回文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門 新人賞を受賞。

メイキング映像『はじめよう/裏ヴァージョン』(2012)

 唯一無二の個性を発揮し続ける新井だが、吉上が「同じものが溢れている世の中で、違ったものを出していこうっていう感覚はすごく真っ当だと思います」と語るように、仕事の臨み方としては真っ当にして真摯。だが、違ったものを目指すからこその変化もある。
 次ページでは、新井の仕事への取り組み方がどのように変化していったのかに迫ってみた。

プロデューサー編