組のちから
第5回 齊藤組

TVCM『FREETEL』。フリージャズの“型”を崩す舞台裏

今や第一線のCMディレクターである齊藤雄基。企画や発想、そして音楽の使い方はもちろん、映像においても定評がある。そのすべての結晶とも言えるのが最近作FREETEL『REI 麗』のCM。
音楽を手掛けているのは、もちろん盟友・佐々木。「シンプル&ビューティー」がコンセプトとなっていて、シンプルで美しい映像に、フリージャズの型を崩したインパクトの強いBGMが掛かるというもの。齊藤にとっては、「20年以上前からずっと作ってみたいと思っていたもの」でもあるという。

齊藤:最初にクライアントから、インパクトのあるものにしたいというオーダーがあったんです。ただ、初めて世にCMを出す会社だったので、あまり下品なことをやって安いものに見えてしまうのもよくない。あとインパクトって言うけど本当に覚悟できているところは少ない。でも実際にお会いして話を聞いてみたら、本当にインパクトを求められていたので、あとはCMとしてどこまで攻めていけるかと。

齊藤組-Photo佐々木:音楽の仕事としても、FREETELは面白かったですね。このご時世、前衛的なものよりも、うまくまとまったもののほうが喜ばれることが多いんですよ。ここまでの冒険はなかなか音楽でもできない。そもそもフリージャズの概念ってあいまいなんですが、そのへんもうまく齊藤さんがディレクションしてくれたなと思います。

齊藤組-Photo齊藤:佐々木さんには幅を出してもらおうと思って、フリージャズを中心に「インパクトは必要なんだけれど、上質感は失ってはいけない」というオーダーをして、まずサンプルを30~40曲出してもらったんですよね。幅を出してもらったのには僕の中では狙いが2つあって、思ってもみないマッチングをする曲が出てくるかもしれないというのが1つ。でも企画コンテの一番最初の段階から、フリージャズが正解かなとは思っていたんですけどね(笑)。あとはいろいろ比較検討して、そのうえでやっぱりフリージャズがベストなんだってっていうところに持っていくための材料として出していただいてというのが狙いのもう一つ。

佐々木:スマートフォンのCMってだいたいパターンが決まってしまっているんですよね。でも今回はそこから離れた新しい見せ方になっていて、さすが齊藤さんだなと。映像が上質にできているので、音楽はもっとノイズ的に攻めてもいいんじゃないかと話していたんですよね。齊藤さんは毎回画がきれいなんですが、今回はまさに上質な美しさがあって品質は保証されていたので、音楽も心配せずに取り掛かれました。最近はあまり見ないタイプのCMに仕上がったと思います。

FREETELは、なるほど、確かに音楽に引き付けられるCM。しかしそのインパクトの強い音楽が使えるのも、上質な映像があるからで、映像が上質になるのもインパクトの強い音楽を想定しているからこそ。

佐々木:CMの音楽はまだまだどうしても保守的なところはあるんですよね。今の時代、短調のマイナーの音楽は暗いと判断されてしまって、好まれないというのもある。僕はそういうものも好きですし、歌謡曲を使った昔のCMなんかは短調でもいいものがたくさんあったんですけどね。齊藤さんが興味を持っているアイドルはそれこそ明るくて、CM向きかもしれない。お菓子のCMに合ってるかもしれないですね。

齊藤:いいかもしれないですね。お菓子は昔から結構ぶっ飛んだCMが多いんですよ(笑)。アイドル音楽で何かまた変わったことができたら面白いですね。

映像も音楽も、CMから切っては切り離せないもの。そのどちらの魅力もすごさも知る齊藤雄基、佐々木亨、そして<齊藤組>。音にハッとさせられて、画にグッと心つかまれる。そんなCMと出会ったなら、それはふたりの仕事かもしれない。

齊藤組-Photo

プロフィール
写真右 齊藤 雄基(さいとう ゆうき)
神奈川県横浜市出身。武蔵野美術大学卒。1998年、ROBOT入社。CMプランナー、ディレクターとして数多くの作品を手掛ける。CMの他にもTVドラマ、ショートフィルムなどの映像を中心に、キャラクター開発、書籍、作詞などさまざまなジャンルで活動している。

写真左 佐々木 亨(ささき とおる)
山口県下関市生まれ。作曲家・アレンジャー・プロデューサー。2005 年有限会社ハンサムトラックス設立。CMを中心とした広告音楽制作活動をしている。

掲載日 : 2016.8.24

Text: 渡辺 水央 / Photo: 石井 健(ポートレート)