組のちから
第8回 西田組

役者の生理を大事にする西田の現場作り

西田組-Photo

そんなふたりの2度目のタッグとなる『泥棒役者』は、西田の作・演出による2006年の舞台劇の映画化。まさに『ガチ☆ボーイ』でふたりが出会った頃に西田が手掛けていた作品の映画化で、「そこから10年って考えるとすごいですよね」(明石)、「でも振り返るとあっと言う間ですね」(西田)とお互い振り返る。

西田:『小野寺の弟・小野寺の姉』を撮っているときから「次をまたやれたら」と言っていて、『小野寺~』の続編という話も出てたんですが、今回の結果が出ないことにはと思っていたのでビクビクしていましたね(笑)。

明石:そのへんが西田さんはすごい堅実というか、割と怖がりですよね。次の作品の話をどんどんしてもいいのに、「でも、まずは1本目がヒットしてから!」って。

西田:ワクワクしてダメになるのがツライんですよ。叶わなかったら悲しすぎるじゃないですか(笑)。ただ、おかげさまでボーダーラインは超えることができ、次も監督ができることになって。『泥棒役者』に関しては、いずれ映像にできたらなという思いはあったんです。準備期間がちょうど朝ドラ(NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』)に入る前の時期だったんですけど、以前預けていたオリジナル企画は時間も予算も掛かりそうで2作目でも難しいとなって、「『泥棒役者』はどうでしょう?」と相談させていただいたんです。

明石:『泥棒役者』は舞台も観ていて、西田さんらしい作品だなと思っていたので、すごくいいなって思いました。ただ、演劇らしい構造の話だったので、映像だとどうなるのかなっていう心配は多少あったけど、やるからには舞台の面白さを超えないといけない。でもさすがは西田さん、そのオーダーもしっかりクリアしてくださって。

主演に迎えたのは、2012年の西田作・演出の舞台『BOB(ボブ)』でも一緒に仕事をしている関ジャニ∞・丸山隆平。『とと姉ちゃん』でヒロインを努めた高畑充希、『ガチ☆ボーイ』からの縁でもある宮川大輔、舞台版で主役の泥棒を演じた片桐仁など、キャストにも西田組が揃っている。

西田組-Photo

西田:丸山くんはちょっと珍しいタイプの役者さんで大好きなんですが、プライベートでも会っていて、世間的に出ているだけじゃない彼の印象と、役の印象が合うなと。そこを出せたらなと思いましたね。丸山くんは結構暗いところもあるんですよ。

明石:彼も西田さんに対して同じことを言ってました。「西田さんはひとりのときはたぶん……」って(笑)。

西田:そうでしたか(笑)。今回、面白かったのが、クランクインの前に丸山くんの家で自発的な読み合わせをやらせてもらって。『小野寺の弟・小野寺の姉』はインの前に同じキャストで舞台版があったので、その段階で(片桐)はいりさんと向井くんの姉弟としての空気感がすでにできあがっていたんです。ただ、今回はそういう準備期間はないので、個人的なつながりを利用して、「集まってホン読み(台本の読み合わせ)もしない?」って言ったら、丸山くんも「ぜひぜひ」と。それで市村(正規)さんにも衣裳合わせのときにふと声を掛けてみたら、「行く」って言ってくださって、(宮川)大輔さんにも来ていただいて。かなり集まってしまったので、別の場所を取ろうかという話もしたんですけど、彼は「うちでいいですよ」って言ってくれたんですよね。

明石:西田さんはもともと役者さんをされていたから、コミュニケーションの取り方において、役者さん側にもスッと入っていけるんでしょうね。

西田:役者側の生理は意識してますね。皆さんそれぞれタイプがあるじゃないですか。今回の丸山くんや市村さんや大輔さんは、事前に稽古をやりたいと考えてくれる人だろうなと思ったので声を掛けたんです。ユースケ(・サンタマリア)さんも後に「声を掛けてくれたら行ったのに」と言ってくれたんですが、ユースケさんはそういうタイプではなくて、いやいや、絶対来ないでしょ!? と(笑)。あと、現場の空気づくりというのも役者側の見方で考えていますね。どうしたら役者が緊張しないで臨めるか。それも『ガチ☆ボーイ』を経験して思ったことなんです。僕も最初はそうでしたが、例えば久しぶりの仕事だから頑張ろうと思ってカメラを意識してしまうと、緊張もする。でも『ガチ☆ボーイ』は連日撮影があって、カメラ前にいて、そこで芝居をするのが当たり前だという空間を味わえたんですよ。その経験がすごく大きかったんです。この感じを、僕の作品に参加する俳優にもたらしてあげたいというか。そこは考えながら撮ってますね。

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西田:そういうオファーをいただいたりもするんですが、自分の人生の限られた時間を使って映画を作るなら、自分の書いたものでやりたいなと思うんですよね。自分の書いたものに対して、そのニュアンスまで管理できるというのが監督の楽しみでもあるので。あと、人が書いたものを監督するとなったら、どうしても気を遣うじゃないですか。自分も書く側だけに、手を入れられたら脚本家さんは嫌だろうなって考えてしまいます。たぶん…向いてないですね(笑)。

明石:そういったよけいな神経を使うようなことはしない方が良いですよ(笑)。西田さんがご自分でやりたいものが生まれてきたら、じっくりそれをやっていただければ。

西田:現場のスタッフさんはよく「西田組はテンション高くいられる」って言ってくださるんですが、それはひとつ、オリジナル作品だからというところも大きいみたいなんです。原作に近づけるじゃなくて、それぞれのポジションから皆さんが思い描いたものを持ち込んでみんなで一から作っていける。そういう楽しさはあるみたいですね。

明石:同じ脚本を読んで作品を作っているのに、皆さんそれぞれの見方があるので意外なものが出てきたりするのも作品を作っていて面白いところですよね。スタッフの皆さんは「脚本が本当に楽しみ」って待ってくれて。そういえば奥様も西田作品の大ファンだというスタッフがいらっしゃるんだけど、彼が「西田組をやることによって僕の株が上がりました」って言っていました(笑)。

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