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ネコのさくせん


イントロダクション

このキャラデパに2000年の末にエンエア予告をしたものの、実際オンエアされたのが2001年4月16日と大幅に完成が遅延してしまった作品です。(もちろん制作も遅れたのですが、かかりっきりになっていたわけではなく、ポーなどのレギュラーの制作で中断したりしたのです)

そもそも、ポーが紙芝居スタイルで動いてなくて、ジャムはその正反対の立体なので、ポーのようなタッチのある動く平面アニメを作りたいという欲求からこの企画はうまれました。そこで、NHKプチプチアニメのプロデューサーにジャムを5話つくったら、1本平面アニメを作らせてと頼み込んで作った作品です。

将来的にもこう言ったタッチのある絵画(?)的なアニメーションは自分がやりたい本流であります。もう少し言えば、ここんところ、ポーにしろ、ジャムにしろ、セリフやナレーションに頼った表現が多かったので、言葉に頼らない、アニメーション本来の魅力である動きだけで見せ切る物語が作りたかったのです。
また、ジャムは、自分のアニメーターとしての力量からカタツムリにしたのですが、いささか感情移入しにくい生き物かなとも思い、もっと身近な動物であるネコとイヌを主人公にしてみました。内容も、ジャムやポーがちょっとウェットなものが多いので、ガラリと変えて「プチ痛快娯楽動物スポ根アクションもの」(?)を目指しました。

キャラクター

登場するのは、ネコとイヌだけなのですが、かわいいものにする気はなく、こにくらしく、どこか不敵で、ちょっとブサイクなものをねらいました。下にある当初のキャラクターラフデザインは、2等身のため、激しいアクションができないので、実際は3等身くらいに変更しました。

登場人物

トラ

このお話の主人公。
ニホンネコとスコティシュホールドの雑種のため普段は耳がたれている。名前の通りトラネコ。(ボクは個人的にネコは野生味あふれるトラネコが一番好きです。)
ミケ

トラの弟分的な相棒。
純ニホンネコ。名前の通りミケネコ。
ブッチ

庭に鎖でつながれた飼い犬。
ブルテリアの設定だったがなんとなく、柴犬などのニホン犬がまざってしまった風になってしまった。目のまわりのブチが名前の由来。
ブル

見ての通りブルドック。

ストーリー

(これから観る気のある方は読まないで!)

満月の夜、庭先で気持ちよく寝ているブッチの頭を野球のボールが直撃。そのボールを取りに来たのはグローブをつけたトラ。それを見たブッチはボールを犬小屋にかくしてしまう。さあ、大変!ネコのボール奪還作戦がはじまった。
作戦その1……ゴミ置き場でボクシンググローブを見つけたトラは、ボクシングで勝負を挑むが、無惨に敗退。
作戦その2……次に怪獣マスクを見つけたトラは、それをかぶってブッチをおどそうとするが、あえなく撃退される。
作戦その3……まっこうからバットをブッチにつきつけて「いざ、勝負」と闘争心をあおり、ボールを投げさせる。見事に作戦成功!と思いきや、今度はブッチが犬小屋の中からバットを取り出し、トラに勝負を挑んだ。よせばいいのに、それを受けるトラ。第一球、振りかぶって投げたトラの球は……。


プロダクションノート

どんな作品でも最初に作るのはキャラクターとコンテです。
オープニングのイメージや、三段階の作戦を展開するのは早い時期から決めていたのですが、ラストは、最終形と少し違いました。ブッチにホームラン級の当りを打たれて落ち込むトラたち。その後日(三日月の晩)、隣町の野良猫軍団との試合の最終回裏、トラたちの攻撃。2アウト満塁でホームランがでれば逆転。そこで、トラ立ち上がって「タイム!」をかけて駆けてゆく。所かわって、ブッチの小屋、ブッチの首輪がはずされている。そこに、小気味よい金属バットの音。ブッチのいない犬小屋の屋根を直撃。クレジットタイトルのバックでホームベースを踏んでいくネコたちの足。4人目(ホームラン打者)の足はなんとブッチ!というネコとイヌの微妙な友情物語りだったのです。
しかし、ラストのシチュエーション説明が必要だったり、子ども対象番組にはちょっと難しそうなので、もう少しシンプルにして、あのラストになりました。そんな具合にコンテができるまでは早かったのですが、その先が大変でした。

この作品で目指したのは、従来のキレイに塗りわけられたセルではなく、ザワザワ、ガサガサなどのタッチとトーンを持ったアニメーションです。当初はキャラクターのパーツをバラバラに作り、線画台(アニメーション撮影台)で動かしたり、置き換えたりする正統的切り紙アニメの手法で作ろうかとも思っていたのですが、限られた撮影日数で撮りきる自信がなかったので、セル素材を作ることにしました。その撮影素材を作る工程がちょっと面倒なのです。また、いろんなことを試行錯誤しながら作っていたので最終的には無駄だった工程もいくらかありました。そんなこんなで思いの外、時間がかかってしまい、放送も遅れててしまったのです。

例えば、トラの素材だと、以下のような工程でつくられます。

1.
カットごとの動きに合わせて、まず動画をおこします。(ここまではセルアニメと同じです)彩色作業に手数がかかるので、この時点で固定部分と動作部分の動画(セル)分けをして彩色作業の軽減化をはかります。(しかしカットによって、一枚一枚描いてしまった方がよかったり、パーツを分けた方がよかったりなかなか微妙です。トラなどのガラモノは極力セル分けをして複雑な彩色の手間をはぶきました)

2.
次にそれを別の紙にトレスし、色鉛筆や絵の具で彩色します。(スキャン回数やデータを軽くするためにA4の紙に極力詰め込んでトレスします。)

3.
それをパソコンに取り込んで(スキャン)、大きさや色を修正・調整します。

行程1〜3

4.
プリントアウトしたもの(この段階でカラーインクなどで色調整したものもあり)を切り抜いて、動画の位置に合わせてセルの裏面へ、ペーパーセメントなど(この接着剤も粘着度、透明度などで途中いろいろ変えた)の透明系の接着剤を(絵素材の表から)塗って貼る。このセルの裏から絵素材を貼るのがノルシュテイン師匠直伝(パクリ?)の技です。

5.
次にセルの表から、ネコのケバケバした毛の感じをだすために、輪郭や境界線に沿ってニードル(細い針)で毛状に引っ掻き、その溝にダーマトグラフ(油性色鉛筆)で明るいところには白、暗い所には黒を擦り込む。
また、ネコのヒゲなども同様の手法でセルに直に太めに引っ掻き白ダーマトグラフを擦り込む。さらにダーマトグラフの黒で暗部や接地の影をいれて調子を整える。

6.
こんな工程を経ているので、(手袋をつけて作業していても)セルがホコリや接着剤や手の油でかなり汚れます。最後にこの汚れを羽箒やシンナーで落としてセル素材の出来上がりです。

行程4〜6


セル素材は、このようにキャラクターやカットによって若干の工程の違いはありますが、面倒な工程を経て完成します。と同時に背景もカットにあわせて作ります。

背景は色鉛筆、クレヨン、絵の具などで描きました。それをパソコンでスキャンして、大きさや色を修正・調整します。今回はセルと背景を密着させて撮影する密着マルチという手法で撮影したので、ボカシたい背景はパソコン上でボカシて、プリントアウトしました。キャラクターの手前にくる素材(アニメ業界ではブックと呼ばれる)なども別素材にしてプリントアウトします。そしてそれらをセル素材同様にセルの裏から貼って、表からクレヨンやダーマトグラフでラインを太く自然にしたり、タッチをいれたりして調子を整えます。

背景とキャラクター

こうしてできた背景とセル素材をNHKの700スタジオ(アニメ専門スタジオ)に持ち込んで撮影です。今回、撮影は当初の予定通りに終わらずに、何回かに分けてどうにか終了しました。

編集はボクがいつもお世話になっている NOVAというところで行いました。基本的にはアナログの撮りきり(あとで合成などの加工をしない)でいこうと思っていたのですが、若干の合成と、クリーンアップ(ゴミ消し)をしてもらいました。

音楽は、かねてから一度をお願いしたかった板倉文さんにお願いしました。板倉文さんは、ちょっとユニークな天才ギタリストで、市川準さんの映画音楽などもやっています。その昔は、チャクラというバンドや天才ミュージシャン集団キリングタイムなどをやっていて学生時代などは楽しませてもらっていました。タイトル曲はトラのグローブ音とミケのバット音がリズムになっているので、テンポ指定でつくってもらいました。あとは、尺八、しびれるでしょ。

声の出演は、セリフがないためクレジットされていませんが、トラは元遊◎機械/全自動シアターの富浜薫嬢に、ちょっとニクく、ちょっとカワイくやっていただいております。ミケは自分が所属する会社ロボットのAvid編集ガールの稲本真帆嬢。ブッチとブルはロボットCM部の笹岡敬嗣プロデューサーです。

てなわけで、2001年の3月末に約半年の制作期間を経て、どうにかこうにか完成した代物でございます。

プチプチアニメは番組の都合上、スタッフのクレジットがされませんので、この場で少し御紹介いたします。

まず、知人のアニメーター木村光宏さんには、ボクシング(今回もっとも難しい動画部分)と怪獣シーンの動画を手伝ってもらいました。
さすがプロという感じでいろいろ勉強させていただきました。
仕上げの全工程を腱鞘炎になりながら最後までつきあってくれた宮崎秀人くん。
チグチグ、ナオちゃん、サカイくん、村上くんの仕上げ助っ人チーム。
撮影の山田さん、浅野さん。
Avid編集の青木さん。
編集(NOVAの)の池上さん、根岸くん。
SE(Onpa)の小林さん、日高さん。
MA(TVT赤坂)の水津さん。
別の会社でプロデューサーになった制作だったサトチン。
いつもきびしいムチで予算とスケジュールと内容管理のまっちゃん。
プチプチアニメの創始者、NEP21の松本さん、当時の担当、渡辺さん。

そして、この作品を観て楽しんでくれた皆さん、どうもありがとうございました。

2002年1月某日 のむらたつとし




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